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よちよち歩きの赤ちゃんのO脚の原因を解明 ~「生理的O脚」と呼ばれている状態とビタミンD欠乏との関連~

育児中のママにはぜひ目を通していただきたい論文です。

https://research-er.jp/articles/view/85751

 

 

順天堂大学医学部整形外科学講座 坂本優子准教授(医学部附属練馬病院勤務) と石島旨章 准教授、および小児科学講座 中野聡 非常勤助手、鈴木光幸 非常勤助教らの共同研究チームは、これまでは「病気ではなく、時間が経てば自然に治る」とされてきた「生理的O脚」と呼ばれる1歳半から2歳ごろの赤ちゃんのO脚が、実は骨に大事な栄養素であるビタミンDの欠乏と関係しているということを世界で初めて明らかにしました。本研究成果は科学雑誌Calcified Tissue International2020年2月号に掲載されました。

坂本優子准教授からのコメント

今回の結果は、今まで原因がわからないと思われていた幼児のO脚の原因の一つがわかったという科学的に意味のあるものだと思います。それだけでなく、O脚は、原因となった生活習慣を見直すことで、一生に渡り骨を元気にすることにつながる可能性があるということを明らかにした、骨の健康促進においても意味あるものだと思います。これからも、子どもの未来の骨を考えた研究を行っていきたいと思います。

本研究成果のポイント

  • 1歳半から2歳ごろの赤ちゃんのO脚にはビタミンD不足が関係していた
  • O脚の赤ちゃんは積極的に日光浴をしたり食事からビタミンDを摂取することが大切

背景

よちよち歩きの1歳半から2歳ごろの赤ちゃんはO脚、つまり膝と膝の間が離れてしまって歩き方が不安定に見えることがあります。このO脚は「生理的O脚」と呼ばれ、小児科では「赤ちゃんにはよくあることで、そのうち治ります」と言われたり、整形外科でレントゲンを撮っても「くる病(骨の栄養が足りずに起こる病気)ではないから少し様子を見ましょう」と言われたりします。

くる病はO脚になるのと同時に、血液検査でビタミンD欠乏や骨に関する項目に異常が認められ、レントゲン画像でも骨にきちんと栄養が届いていないことが確認できる病気です。一方 「生理的O脚」は、O脚だけが認められ、レントゲン画像や血液検査では基準値を超える異常な状態は見つかりません。今回、研究チームは実は「生理的O脚」でもくる病と同じように「骨への軽い栄養障害が起こっているのではないか」と予想し調査を実施しました。

内容

今回、 O脚を心配して来院した赤ちゃんたちと、O脚がなく風邪などで来院した同じ年齢層の赤ちゃんを、男女比が同じになるように調整して、骨に関する血液検査の結果を比べてみました。その結果、O脚の赤ちゃんは、O脚のない赤ちゃんよりビタミンDが不足していること、そしてそれだけでなく、くる病では異常に高くなる骨に関する血液検査の項目(副甲状腺ホルモンやアルカリフォスファターゼ)が、基準値の範囲内ではあるものの、より高くなっていることがわかりました。また、副甲状腺ホルモンとビタミンDの相関関係もO脚の赤ちゃんとO脚のない赤ちゃんに差が認められました。副甲状腺ホルモンは、体にカルシウムが足りなくなってくると分泌されるため、ビタミンDが不足しカルシウムの吸収が悪くなると分泌が増えます。O脚の赤ちゃんはビタミンDが不足すればするほど副甲状腺ホルモンの分泌が増えていましたが、O脚のない赤ちゃんはそのような傾向はありませんでした(図1、図2)。このことはO脚の赤ちゃんはカルシウム摂取も不足していることを表しているのではないかと考えられます。

以上より、O脚の赤ちゃんはレントゲン画像や血液検査が基準値の範囲内であっても、くる病に近い状態にあり、積極的に日光に当たったり、サケ・サンマ・イワシ・シラスなどの魚を食べたりしてビタミンDを摂取することが大切だということがわかりました。

図1: O脚の赤ちゃんと正常な(O脚のない)赤ちゃんの脚の写真と単純レントゲン画像

単純レントゲン画像では「くる病」をうたがうサインは認められません。

図2: 血液検査の結果

O脚の赤ちゃんは、O脚のない赤ちゃんに比べて血中ビタミンD[25(OH)D]値は低く、アルカリフォスファターゼとインタクト副甲状腺ホルモン値は高いという結果でした。

今後の展開

今後は、どの時期のビタミンD不足がO脚に関係するのか(お母さんのお腹にいる時、生まれた後など)、栄養との関連、体質との関連などについて明らかにしていきたいと考えています。

原著論文

本研究は、科学雑誌Calcified Tissue International 2020年2月号に掲載されました。

論文タイトル:「Physiologic leg bowing is not a physiologic condition but instead is associated with vitamin D disorders in toddlers」

掲載論文のリンク先:http://link.springer.com/article/10.1007/s00223-019-00619-9 

DOI: 10.1007/s00223-019-00619-9

本研究はJSPS科研費JP18K09045 、および文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成事業の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。

なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。

 

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