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“衝撃”の事実! ジョギング・ウォーキングの効果は、脳への“衝撃”によるものだった!! 頭への適度な“衝撃”が脳機能を調節・維持することが明らかになった!!!

ジョギングやウォーキングの効果は、脳への衝撃を伝えるものだったという研究です。

昔から、縦軸への衝撃が骨密度を始め健康に欠かすことのできない刺激であることはわかっていましたが、この研究は健康マニア、運動フェチにはたまらなく面白い記事ですね。

 

https://research-er.jp/articles/view/85686

 

 

“衝撃”の事実! ジョギング・ウォーキングの効果は、脳への“衝撃”によるものだった!! 頭への適度な“衝撃”が脳機能を調節・維持することが明らかになった!!!

 

国立障害者リハビリテーションセンター研究所運動機能系障害研究部分子病態研究室と、東京大学などとの共同研究グループは、軽いジョギング程度の運動中、足の着地時に頭部に伝わる適度な衝撃により、脳内の組織液が動き、神経細胞に物理的な刺激が加わり、神経細胞でタンパク質の分布が変わることが、大脳皮質における薬剤誘導性の幻覚反応の抑制につながることを発見しました。すなわち、この研究では頭部への物理的な“衝撃”が脳機能の維持・調節に関係していることを、その背景となる分子の仕組みと共に世界で初めて明らかにしました。本成果は、運動時に頭部に加わる適度な衝撃が健康維持・増進効果に重要である可能性を示すものであり、米科学誌『iScience』に掲載されました(2020 年 1 月 31 日オンライン公開)。

 

研究成果のポイント

  • 軽いジョギング程度の運動を 1 日 30 分間で 1 週間続けたマウスでは、前頭前皮質※1(大脳皮質の一部)において高用量のセロトニン※2により誘導される幻覚反応が抑制される。
  • ジョギング程度の軽い運動をしている動物(マウス、ラット)では、前足が着地する毎に頭部に約 1 G の衝撃※3が加わる。
  • 麻酔したラットの頭部を、1 G の衝撃がリズミカルに加わるように、毎秒 2 回上下動させると(これを受動的頭部上下動と名付けた)、脳内の組織液(間質液※4)が秒㏿約 1 ミクロン で主に前後方向に流れ、これを 1 日 30 分間・1 週間続けると、1 週間運動を続けたマウスと同様に、前頭前皮質におけるセロトニン誘導性の幻覚反応が抑制される。
  • 1 日 30 分間・1 週間の運動を続けたマウスと、1 日 30 分間・1 週間の受動的頭部上下動を与えたマウスでは、幻覚反応に関係する前頭前皮質の神経細胞におけるセロトニン 2A 受容体※5が細胞表面から細胞内部に移動(内在化※5)しており、セロトニンに対する応答性が低下する。

 

特に加齢や肢体不自由障害に伴う身体不活動※6 は、筋萎縮や骨粗鬆症といった運動器官の異常の原因となるばかりか、認知機能障害など脳機能の低下を含むさまざまな身体機能低下につながり、健康寿命をおびやかすことが明らかとなっています。運動が脳機能の予防・治療に極めて重要であることはわかっていましたが、運動が脳の健康を維持する仕組みはよく分かっていませんでした。

 

また、脳に限らず、運動は身体のほとんどすべての臓器・組織において炎症・老化を抑制する効果があることはわかっていましたが、その仕組みもよく分かっていませんでした。

 

本研究の意義は、運動の脳機能調節効果の背景となるメカニズムの発見です。「適度な運動」で生じる組織液の流動を操作・調節することによる脳機能低下さらには全身の臓器の機能低下の治療・予防法の開発につながります。さらには、どんな運動を 1 日どのくらい、1週間に何日行えば、健康維持になるのかといった健康寿命延伸へ向けた重要な問題の解決にもつながるものです。今回の研究の成果からは、運動により頭部に適度な“衝撃”を与えることが、脳、さらには身体の健康維持に役にたつ可能性が考えられます。

 

本研究は「日本学術振興会科学研究費助成事業」および「文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」からの支援を受けて行われました。

 

<背景>

超高齢社会を迎えた日本のみならず、先進諸国においては、社会の継続的かつ健全な発展と医療経済という観点からも、健康寿命の延伸が喫緊の課題となっています。ほとんどの加齢性の疾患・障害や生活習慣病に「適度な運動」が有効であること統計的に証明されています。しかし、適度な運動の「適度」はきちんと定義されていないのが実状です。それどころか、運動の何が身体の好影響を与えるかすら、ほとんど分かっていません。例えば有酸素運動が有効と言われていますが、本当に「有酸素」が重要なのか、分かっていません。いわゆるエアロビクスもそうですが、有酸素運動には上下動(飛ぶ、あるいは、飛び跳ねる)を伴うものが少なくありませんので、本当はその上下動が重要なのかもしれません。また、スポーツクラブでしばしばスイミングプール内でのウォーキング(水中歩行)が推奨されていますが、「プールを歩くのは、地上を歩くより本当に良いのか?」「水中歩行と地上歩行、それぞれの利点・欠点」を再考する必要があるかもしれません。このように身体機能の維持・改善における「運動の本質」、すなわち『運動ってなんだ?』が分かっていないことが、運動・エクササイズの健康維持効果に関する情報の氾濫という現況につながっています。また、骨・関節など運動器官の障害により運動したくても運動できない方は、運動による健康維持効果を享受できないので、さらなる身体機能低下を負うことになります。加齢に伴う身体不活動や、肢体不自由障害による身体運動の不足・制限によって、筋萎縮・糖代謝障害(糖尿病)・心血管障害などの二次障害が起こるにもかかわらず、有効で副作用の少ない治療法が確立されていないことは大きな問題です。

 

そこで、研究チームは、運動による脳機能調節効果における運動の本質の少なくとも一部が、運動時(具体的には足の着地時)に頭部に加わる力(衝撃)であることを明らかにし、その衝撃で生じる脳内の組織液の流動による神経細胞の機能変化を個体レベルおよび分子・細胞レベルで検証しました。

 

<研究内容>

(1)軽いジョギング程度の運動で、足の着地時に頭部に約 1 G の衝撃が加わる:

ラットの頭部に加㏿度計を設置し、(ラットにとっては)適度な運動となることが報告されている分㏿ 20 メートル(1 分間で 20 メートル)の走行をさせたところ、前足の着地時に頭部に約1 Gの大きさの上下方向の衝撃が検出されました。今回の論文では記載していませんが、マウスにとって適度な運動となる分㏿ 10 メートルの走行時や人間が軽いジョギング(時㏿ 7km)を行なった時も、足の着地時に約 1 G の衝撃が頭部に加わることを確認しています。

 

(2)1 G の頭部への衝撃を再現する受動的頭部上下動は、軽いジョギング程度の運動と同様に、前頭前皮質における幻覚反応を抑制する:

麻酔下にマウスの頭部を上下動することで 1 G の上下方向の衝撃を頭部に与えたところ(1日 30 分間で 1 週間)、分㏿ 10 メートルの走行(やはり 1 日 30 分間で 1 週間)と同様に、前頭前皮質におけるセロトニン誘導性の幻覚反応とされる痙攣現象が抑制されました。

 

(3)受動的頭部上下動は、前頭前皮質の神経細胞におけるセロトニン 2A 受容体の分布変化に対して軽いジョギング程度の運動と同様の効果をもたらす:

マウスで、1 日 30 分間・1 週間の受動的頭部上下動および軽いジョギング程度の運動は、いずれも前頭前皮質の神経細胞におけるセロトニン 2A 受容体の分布を細胞表面から細胞内へと変化(内在化と言います)させました。

 

(4)1 G の上下方向の衝撃を頭部に与えると脳内組織液が毎秒約 1 ミクロンで流動する:

造影 MRI にて、ラットの前頭前皮質内の組織液の移動(流れ)を検討したところ、1 G の上下方向の衝撃を頭部に与える受動的頭部上下動により脳内組織液が秒㏿約 1 ミクロンで流動することが分かりました。

 

(5)頭部に衝撃を与えた時に起きる前頭前皮質の神経細胞におけるセロトニン 2A 受容体分布変化とセロトニン応答性低下を培養細胞で再現:

頭部に適度な衝撃を与えた時に生じる脳内組織液の流動により神経細胞に加わる力を培養細胞で再現したところ、セロトニン 2A 受容体が内在化し、セロトニンに対する応答性が低下しました。

 

(6)組織液の流動を阻害すると受動的頭部上下動による前頭前皮質の幻覚反応抑制と神経細胞におけるセロトニン 2A 受容体内在化の効果が消失する:

マウスの前頭前皮質にハイドロゲル※7を導入すると組織液の流動が阻害されますが、細胞への栄養供給などは保たれるので細胞死は促進されません。しかし、前頭前皮質にハイドロゲルを導入したマウスでは、受動的頭部上下動による前頭前皮質のセロトニン誘導性幻覚反応抑制と神経細胞におけるセロトニン 2A 受容体内在化の効果が消失していました。これは、受動的頭部上下動の効果が組織液の流動を介していることを示します。

 

今回の研究内容を図 1 にまとめました。

 

<今後の展望>

間質液は全身のどの組織・臓器においても存在し、前頭前皮質の神経細胞のみならず脳内の全ての細胞は間質液に接します。今回、マウスやラットで見られる幻覚反応に対する頭部への衝撃による抑制効果を検証しましたが、「運動→頭部に適度な衝撃→脳内間質液流動→脳内の細胞に力学的刺激→脳内の細胞の機能調節」という分子の仕組みが、運動による脳機能調節に広く関与していることが考えられます(図 2)。今回の研究は、間質液の動きを促進することが脳機能維持法としての運動の本質の少なくとも一部であり、「運動ってなんだ?」という問いへの答えにつながるとともに、運動したくても運動できない障害を持つ者にも適用可能な擬似運動治療法の開発につながる可能性が見いだせました。

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